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夫に先立たれたA子さんの生き方 [その1]

夫B氏、50歳、会社員
A子さん53歳、専業主婦、娘25歳既婚

A子さんは3カ月前に夫を癌で亡くされ抑うつ症状で来所されました。
夫のB氏は営業部長で得意先との接待で、深夜帰宅が続き疲労が重なっていました。

B氏は大学卒業後、営業畑で働き続け、部署異動もなく「ザ・営業」と評されていました。
営業不振な社員は彼の手ほどきを受けろというくらい社内での評価は高かったのです。
積極的で明るい性格から成果を着々と上げていました。

上昇志向が強く自信家で負けず嫌い、同期の仲間の目も気になり営業でトップに居続けることを目標にしていました。
尊敬する部下も多くいましたが、社内には敵も多いことを自覚していましたが、強引すぎる手法も結果が全てだという持論でした。

家庭でのB氏

社内結婚で、B氏24歳A子さん27歳でした。
A子さんは営業部内の調整や上司のスケジュール管理を主な仕事としていました。

結婚に至った経緯はB氏の将来性を見込んだ部長の強い後押しがあったからです。
「あいつは将来この会社を背負って立つ奴だ」
A子さんは「有望株だ、今が買い時だ」といった部長の言葉が印象に残り忘れられません。
上司が惚れ込んでいる人で、上司からの薦めは幸せな結婚のカギを手に入れたものと感じました。

夫を支えるため専業主婦となり、夫の健康管理を自分の役割と決め、無農薬の野菜、糖分脂質の管理、サプリメントと毎日の献立にも気を遣いました。

A子さんの苦悩

しかし、結婚当初から深夜帰宅、出張等でA子さんとのすれ違いが続きます。
冷え切った夕食を尻目に背広も脱がず倒れ込む夫を目の当たりにして、自分の存在感が消えていく日々でした。
たまの休日は寝だめをするだけで、疲れ切った夫との夕食は味気ないものでした。

結婚3カ月が経った頃、A子さんは「私との時間をとってゆっくり話したい、もう少し早く帰ってきてほしい」と伝えました。
B氏は「こんな遅くまで働くのはA子のためだ。俺がいない時間をもっと自分のために有効に使ってほしい。自分はいちいち指図されたくないんだ」と強い口調の返事でした。

A子さんは、この言葉から自分が描いていた結婚は間違えていたこと。上司の有望株の意味は、会社に役立つ男だから金銭的には心配がないという意味だったと悟ったのです。
自分の描いていた家庭は、夫のストレスを聞いたり、自分の愚痴を打ち明けたり、休日には好きな映画を見にいくことでした。
夫婦の絆は長い時間をかけて培い、お互いに理解しあえる環境をつくることでした。
金銭的な欲求はそこにはなかったのです。
アットホームで優しい夫、子供を囲む食卓だったのです。

学友C子との出会い

結婚の夢は砕け、口論は毎日のように続き、割り切れない葛藤の結論は出ません。
そんな中、結婚1年後A子さんに女子大学時代の同窓会の誘いがありました。
帰らない夫を鬱々とした時間を大学時代の仲間と会うことで解消しようと考え出かけました。
久しぶりに会った学友には華があり、みんな幸せそうにみえました。
サークル仲間だったC子さんに辛そうだけど大丈夫なのと声をかけられたとき、ぷつんと緊張の糸が切れ、涙が溢れてきたのです。
C子さんに結婚生活の実情を話すことができました。

C子さんは独身で結婚願望もなく、キャリア志向で外資系の企業で働いています。
自分の仕事やプライベート観など活き活きと話すC子さんは輝いていてとても魅力的でした。
衝撃的だったのはC子さんには付き合っている男性が2人いて、2人ともC子さんとの結婚は望まずC子さんも同意のうえでのお付き合いなのです。

A子さんには衝撃的な話で、自分の世界観では理解できない内容でした。
しかしどこかでC子さんの生き方を羨んでいる自分もいたのです。
それは自分の不幸な結婚生活から逃避したい気持ちがあったから生まれた感情でもありました。

それから1カ月後C子さんから夕食のお誘いがありました。
当日、C子さんと見知らぬ男性D氏が出迎えてくれました。
男性はC子さんの同僚、会社を出る時に出会い、つい誘ってしまったとのことでした。
そんな彼女の話をニコニコと聞いているD氏に好感を持ち、C子さんのようにこの時間を楽しもうと気持ちを切り替えました。
夫にはない何か女性に近い親近感さえ感じたのです。

帰り際、C子さんのすすめでD氏と連絡先の交換をしました。
A子さんはD氏の心遣いのある言葉で自分の気持ちが揺れていることに気づきました。

依存するA子さん

A子さんとD氏との出会いは、A子さんが今まで感じたことのない感覚でした。
甘い空想はあっという間に現実のものになったのです。
夫と離婚したいという欲求が強くなることにもつながってきました。
しかし、D氏とは、お互いのプライベートは守り、今の時間を楽しみ、束縛しないという約束です。
A子さんは理解しつつもD氏に深く入り込んでいきました。

そんなある日、D氏から突然の別れのメールが届きました。
「これ以上のお付き合いはお互いを傷つけあうことになるようです。いままでありがとう」突然の別れでした。
茫涼たる原野に一人投げ出され歩く方向さえ見つからない状況でした。
誰にも頼れない、そして更なる苦しみが始まりました。

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夫に先立たれたA子さんの生き方 [その2]に続きます。

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