●Aさん、24歳、男性、営業職、入社2年目
無断欠勤してしまった
A君は「上司からカウンセリングを受けるようにと言われてきました」と苦笑いと照れくさそうな表情で来所しました。
理由を聞くと遅刻や無断欠勤が続いているので、上司から説教され、カウンセリングを受けるように言われたとのことです。
「昨年の10月頃から、寝過ごしてしまって、気がついたら夕方の5時ということがあり、遅刻が5回、無断欠勤が3回になりました」
仕事が忙しくて疲れているのかと尋ねても、残業はほとんどなく定時に帰宅しているとのことでした。
何かストレス要因があるのではと考え、仕事上の人間関係で何か気になることがあるのかと尋ねても、
「特にないし、今は上司と客先を回っているだけで楽ですよ」と、A君はさらりと答えました。
睡眠状況を尋ねてみると、「寝るのは朝3時で5時頃一度目が覚め、そこで二度寝をしてしまうと夕方までぐっすり熟睡しちゃうんです。お腹が空いて目が覚める感じですかねぇ」と答えます。
上司の気持ちがわからない
「先日も目覚めたら夕方で、もう会社に電話しても仕方がないので、コンビニで夕食のパスタを買って食べていたら、上司が家を訪ねてきて、びっくりですよ!どうして今日休んだのかと聞かれたので、ずっと寝てましたと正直に言うと何時に寝たのかと聞かれました。
朝3時ですと答えたら「社会人としての自己管理がなってないぞ!」と大声で怒鳴られました。
そんなに大きな声で怒鳴らなくてもと思い、すみませんが、近所に聞こえてしまうのでもう少し静かにしてください…て言うと、何も言わずに帰ってしまいました。大きい声を出しすぎたと思ったのでしょうね」
⭐︎翌日は出勤できたの?
A君:はい、怒られるのが嫌だから出勤しました。でも朝はだるいし、腕がしびれているんですよ。
⭐︎どうして腕がしびれているの?
A君:僕、うつぶせで寝ていて、腕に全体重がかかっているからだと思います。
⭐︎うつぶせじゃないと寝られないの?
A君:小さい時からの癖です。
身長は170cmを超える程度で体重が100kg近いA君の右腕は自分の体重に潰され、しびれていたのです。
またうつぶせによる睡眠の質の悪さも重なり、朝目覚めも悪くなったと思われます。
昨日は上司から、これ以上無断欠勤をするのであれば勤労意欲がないと認めざるを得ないので、
何らかの処分をすることになると伝えられたとのこと。
「それならもっと早くに言って欲しかったです」とA君は不服そうでした。
⭐︎早く言ってくれれば遅刻、無断欠勤しなかった?
A君:寝つきが悪くて、ゲームしてしまうから。いゃー、はっきり言って自分には自信がないです。
⭐︎では、最悪転職も考えているの?
A君:いや、それはしたくないんですよね。
この会社はいい会社だと思うし、やめたくないし、やめると転職活動が面倒くさいし。
【A君の思春期】
A君には会社を休むことに強い罪悪感はありません。
就活をしたのはいつ頃なのかを尋ねると、「大学の卒業式後、3月になってからです。友人たちは早くから始めていたのですが、自分にはどんな仕事が向いているか分からないし、面倒だから後回しにしていました。文系だし、営業しかないかなぁと思って応募したら、今の会社に受かったって感じです」
研修中に遅刻や休みがなかったか聞いてみると、研修中は親が起こしてくれていたから大丈夫だったけれども、
配属先は実家から遠く、今は一人暮らしで起こしてくれる人がいないとのことです。
「目覚まし時計3つ枕元に置いているのですが、どうしてか、二度寝すると夕方までぐっすりなんです」
A君は、小学校・中学校までは野球部で活躍し、早朝練習も1度も遅刻なく過ごしましたが、
高校や大学時代から遅刻、欠席が多くなってきたようです。
特に目的もなく、みんなが行くから学校に通っていたと言うA君の表情には、
何のために生きているのだろうという戸惑いがあります。
思春期に人間とは何か、友人とは、働くとは、性差とはなど、様々な状況で悩み、
それなりの答えを見出すために考えていく過程は重要なことです。
信頼をなくしたり裏切られたりすることもありますが、思春期の自己形成は生きていく上でとても大切で、
苦悩から学ぶことで人格が形成されます。
しかしながら、A君は悩むことを放棄したようです。
「面倒だし、考えても答えが見つからない。友人が決めたことについていけば今まで何とかなってきたし、
会社でも上司の言うことをやっていれば問題ないと思うし…」
まずは寝過ぎて欠勤してしまうことを解決しなくてはならないため、スリープ外来のクリニックを紹介しました。
現在は、服薬治療と親からのモーニングコールで朝寝坊せずに、出勤しています。