●Kさん、25歳、独身、技術職
Kさんは、発達障害がテーマのテレビ番組を見ていて、自分に当てはまることが多く心配になり来所されました。
悩んでいること
①上司の指示がわからない。
②学生時代から友人と話をしていても、ついていけないことが多く、自分が発した言葉に周囲が驚き
「そんなこと言ってないよ」と言われる。
③仕事中に周囲の雑音が気になり集中できず、席を立つことが度々ある。
④立てた計画書に急な変更があると焦ってしまい、優先順位がつけられない。
⑤ミスが多いため、上司から「ちゃんと聞いていない、メモを取れ」と言われるが、メモが取れない。
⑥わからないことを上司に聞きたいが、どのように聞いていいのかわからず、
自分の判断で仕事をしているため残業が多い。
Kさんは、コミュニケーションが取れていないと悩み、うつ病ではないかと心療内科の受診も考えていました。
そのようなときにテレビを見て自分に当てはまることが多くあり、ある意味「発達障害だったんだ!」と納得している心境でした。
Kさんの小中高時代
Kさんは礼儀正しく落ち着いた口調で話をしますが、会話の内容より、
私の身ぶり手ぶりに集中してじっと見つめます。
会話の中で「それはどんなことを言っているの?」「それに対してどのように思う?」
「今私が言ったことのメモをとって」というと表情がこわばり沈黙が続きます。
小学生の頃は忘れ物が多く、学校から帰ってくると母は連絡帳を確認し、
毎朝ランドセルの中をチェックしていました。
教室ではじっと座っていられず、隣の子とおしゃべりをしてよく注意されるなど、
小学校では落ち着きのない子と言われていました。
体育のチームワークでやる体操は苦手でしたが、走ることは得意でした。
算数は得意でテストはほぼ満点、国語では漢字は好きだけど、感想文は母に手伝ってもらい提出していました。
ゲームが好きで何時間でもやっていて母からよく叱られていました。
自分で洋服を選ぶことができず、同じものを着ていることも多かったようです。
中学校では「空気が読めないやつ」と言われ、どうしてかと不思議に思っていました。
成績はクラス上位でしたので高校進学には心配ありませんでしたが、自分なりに会話に参加しているつもりでも、
友達の話に入れず自然と孤立していきました。
高校は私立の男子校に入学し、好きな部活で実験をしていました。
男子ばかりで、特に会話に気を遣うこともなく部活の話をしていればよかったので1番楽しい時期でした。
また友人からは面白いやつだと言われていました。
大学は理系の学部に入学し、単位も落とさず順調でした。
しかし、就職活動でつまづいてしまいました。ことごとく面接で落ちて内定をもらえず、学生相談室で相談し、
面接の仕方、話し方、礼儀を修得し、大学4年の後半になってようやく内定が取れ卒業しました。
社会人での生活
教育研修の後に配属されたのは地方の研究室でした。
上司は40代のリーダー、同僚は6人のチームでした。
入社2年目までは、分からないことはリーダーに質問すれば明確に丁寧に教えてくれて、勉強になりました。
しかし、周囲の話し声が雑音に聞こえるようになり離席が増え、自席でも耳をふさいでいたこともありました。
3年目には仕事を任され、1人で考えて決めるようにと言われました。
その頃から、朝起きてからの身支度の順番が狂って混乱してしまい、イライラから歯磨きに30分かかり、
遅刻して注意を受けるようになりました。
そのため、対策を考え、アプリに朝起きてやる順番を書き、洋服を着る順番までも1つずつチェックしていきます。
食事は手作りできないのでほとんど外食です。食事を作るにはさまざな材料があり手順で混乱してしまうからです。
リーダーからの指摘
①自分流で勝手にやらないでほしい。
→報連相のタイミング、聞き方がわからないため自分の判断で進めている(不安感が強くなっている)
②指示されたことがわかっていない。
→曖昧な指示があると実行できない。何を注意されているのか分からない。
③仕事の進捗情報を聞いてもうわの空で、真剣に取り組んでいるのか疑われる。
→抽象的な言葉で聞かれても、自分の仕事に対する期待や意図がよくわからない。
④離席することが多い。
→知覚過敏のため、音、人の動きが気になってじっとしていられない。
⑤電話をとらない。
→音がうるさい。電話にでても言われている内容が理解できない。
⑥メモをとらない。
→人の話を聞きながらメモを取ることは、小さい時から苦手でとても難易度が高い。
⑦効率が悪い。一度に複数のことを手順良くやれば効率が良くなる。
→いくつもの事をやっていると何をやっているのか忘れてしまい、全て中途半端になるので、
順番通りに、一つずつ終わらせる。
Kさんは、退職するのか、休職をするのか考えています。
(続く)